Tea Column

茶道裏千家13代お家元・圓能斎鉄中宗室さまが約100年前に考案されたお点前「各服点」

*追記あり(令和2年6月26日)*

古川宗洋
古川宗洋
ごきげん宜しうございます。
本日もお越しいただきまして有難うございます。

紫陽花が美しい季節になってまいりました。

緊急事態宣言が全国で解除され、少しほっとされている方もおられるかもしれません。

私ども茶道裏千家では、緊急事態宣言の間、坐忘斎(ざぼうさい)お家元がビデオメッセージで様々なお話をして下さっていました。

その中で、100年前にスペイン風邪が流行した時代に考案された濃茶「各服点」(かくふくだて)のお話がございました。

現代では大寄せのお茶会などで「各服点で」と言うこともよくあると思います。

しかしお点前としての「各服点」のお話、そしてそのお点前が考案された趣旨や時代背景が、とても興味深く、有難く拝聴させていただきました。

東京都ではまだ茶道教室を含むステップ2の休業要請の解除がなされておりません。残念ながらお稽古場で社中の方々と「各服点」についてお話することができるようになるのは、まだ先のようです。

そこでこちらの記事では、

  • 各服点とは何ですか?
  • 考案された方はどなたですか?
  • 考案された時代背景は?

など、皆さまとご一緒にお勉強させていただく気持ちで書かせていただきました。

茶道は基本的に口伝によって継承されていくものです。お点前の内容につきましてはご自分の先生にお伺いくださいますようお願い申し上げます

【重要情報】
裏千家坐忘斎(ざぼうさい)お家元が、各服点を詳しく解説して下さり、裏千家業躰(ぎょうてい)部の先生方がお点前を披露して下さいました(令和2年6月26日)。

お茶を愛するすべての方のお役に立つようにとのお家元のご配慮から、流派問わずどなたでもご覧いただけるようになっております。

ぜひご参考になさってください。

http://www.urasenke.or.jp/movie/explanation/explanation.html

濃茶「各服点」とは?

祈りがこめられ人数分練られた一盌を厳粛な雰囲気の中でまわし喫み(のみ)していく。本来「一服」とは濃茶のことをさします。

各服点はこのまわし喫み(のみ)をやめて、一碗ずつお一人様の分量で濃茶が練られます。

亭主はお正客様までは通常の濃茶点前の作法通りですが、次客様から長盆の上にお客様分のお茶碗を持ち出して練っていきます。

【追記(令和2年6月26日)】
長盆につきましては、現在お家元が時代に即したお好みの物を作られているそうです。

お客様の人数によっては工夫もして良いとのことですが、あくまでもお茶を練ることが要の盆ですので、一閑張や彫り物、螺鈿を施した物など、意匠に凝った物は難しいとの事でした。

どのような長盆なのか楽しみですね。

濃茶「各服点」を考案されたは茶道裏千家13代お家元・圓能斎鉄中宗室さま

濃茶各服点を考案されましたのは、茶道裏千家第13代お家元・圓能斎鉄中(えんのうさいてっちゅう)宗室さまです。

*現在、茶道裏千家のお家元は第16代坐忘斎玄黙(ざぼうさいげんもく)宗室であられます。

圓能斎鉄中(えんのうさいてっちゅう)宗匠さま

茶道裏千家第13代お家元

明治5年(1872)〜大正13年(1924)

圓能斎鉄中(えんのうさいてっちゅう)宗室さまは、濃茶各服点の他にも

  • 「盆略点前」 ←今では誰もが通る道
  • 「風炉流し点」←ごく少人数のお客様と語らい合いながらのお茶を想定

なども考案されています。

各服点が考案された時代背景

圓能斎鉄中(えんのうさいてっちゅう)宗室さまが各服点を考案されました約100年前、日本ではそして世界でもスペイン風邪が流行していました。

今日の新型コロナウイルスの流行で危惧されているように、第一波よりも第二波で多くの尊い命が失われた、厳しい時代です。

圓能斎鉄中(えんのうさいてっちゅう)宗室さまのご長男であり、

茶道裏千家第14代のお家元となった無限斎石叟(むげんさいせきそう)宗室さま( *淡々斎(たんたんさい)として親しまれております)は、

『風興集』(ふうこうしゅう)の中でその時代背景をこのように書いておられます。

濃茶は一碗の茶を各自喫み回すことが規定でありまして、すなわち親しみを増す意味で大切なことでありますが、時勢の進化に伴い、衛生思想が著しく発達してまいりまして、すでに宴会の献酬、すなわち盃の交換をするさえ問題にされる時代であります。そんな際に、幾ら厳粛な基調の下に行われるお茶にしても、連客の中には、老人もあれば病人もある、また常に在ってはならぬことでありますが、保健上から見ても、最も危険性の伴う人と同席した場合、いわず語らず気が臆して、同一碗で喫み回すことなどの、躊躇せられることもあります。これらのことに心をつけて、客に嫌忌の念を起こさしめないように謀らうのも、亭主の真情でありました、客に敬意を払った真実な所作でありましょう。 〜『風興集』(淡々斎 千宗室さま著/淡交社)より

“すでに宴会の献酬、すなわち盃の交換をするさえ問題にされる時代”というのが、まさに今私たちがおかれている状況であり、文章に思わず引き込まれていきます。

「歴史は繰り返す」というセリフが自然と頭に浮かぶのは、私だけではないように思います。

無限斎石叟(むげんさいせきそう)宗匠さま *淡々斎さま

茶道裏千家第14代お家元

明治26年(1893)〜昭和39年(1964)

お点前が新たに考案される趣旨は?

お家元もビデオメッセージの中で仰っておりますが、点前としての各服点はとても斬新な発想のようです。

斬新な発想といえば、圓能斎鉄中(えんのうさいてっちゅう)宗室のお祖父様・裏千家第11代お家元 玄々斎精中(げんげんさいせいちゅう)宗匠さまは明治の時代に海外かたこられる方にも対応できる「立礼式」(りゅうれいしき)を考案されました。

新しいことをすると批判されるのが常ですが、それでも歴代のお家元が新しいお点前を考案されるのは、やはり茶の湯の精神を守っていく事にあるのではないかと思います。

玄々斎精中(げんげんさいせいちゅう)宗匠さま

茶道裏千家第11代お家元

江戸時代・文化七年(1810)〜明治10年(1877)

お家元のお話や『風興集』を読んで考える

今、私たちが生きている時代も文化や技術を残すためにあえて始めなければならない、工夫をしていかなければならないことが多くあると思います。

その時に意識されるのが「守破離」(しゅはり)ではないでしょうか。

規矩(きく)作法 守り尽くして破るとも離るるとても本を忘るな

最近ではビジネスでもよく使われる「守破離」という言葉ですが、

千利休さまが和歌の形を用いて私たちに茶の道を示して下さっている「利休道歌」(*解釈・編纂については諸説あります)には

「本を忘るな」=本を忘れてはならない

ときちんと示されています。

各服点においても亭主・半東共によほど”熟練された気の利いた”人でなければ難しいとされています。

新しい工夫をする際にも、もう一度、基本や趣旨に戻り修練が必要のようです。

まだまだ慎重な行動が求められます。私を含め、外出自粛を続けられる方も多いでしょう。

規矩(きく)作法=規則や作法

この時期に基本に徹底的に取り組んで、再びお客様をお迎えできるようになる時には、それを踏まえた機敏な動きができるようにしていきたいですね。

皆さまと共にお勉強させていただければと思います。

本日もお読みいただき有難うございました。

どうぞ引き続きお大事にお過ごし下さいますように。

古川宗洋拝

参考図書のご案内

古川宗洋
古川宗洋
お家元のビデオメッセージでもありました淡々斎宗匠さまの『風興集』(ふうこうしゅう)についてご紹介させていただきます。

『風興集』は最新の教則本のように写真が豊富で見やすい、という訳ではありません。

しかし読み進めていくことが、そのまま空点前になり、外出自粛でお稽古から遠ざかっていた頭の霧を晴らしてくれる、そんな効果のある一冊です。

お点前のそもそもの趣旨や今の時代に通じる工夫を淡々斎宗匠さまが無駄のない文章で直接語りかけて下さる。そんな魅力のある書物です。中上級者の方にも発見が多いこと間違いなしと思います。

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