*こちらの記事は、お茶会の楽しかった思い出を個人のブログとして掲載しております。他所様のお茶会、大事なお道具ですので、お道具組の写真を掲載するような事は控えております。
お茶をしていると「お茶をしていなかったらここへは伺っていなかったなぁ、こんな経験をしていなかったなぁ」ということが良くございます。
今回は老舗のお茶道具屋さん「清昌堂やました」様の別荘にて、富士山麓の澄んだ空気のなか素晴らしいお道具や美味しいお茶をいただく機会に恵まれました。
席中は始終和やかで、皆さま笑顔笑顔。
今年葺き替えたという茅葺の庵はまさに山居の茶室でのお濃茶に、米蔵だったという建物でいただく薄茶はまるで森林の中でいただいているかのよう。
この日のためにご亭主がお心を込めてご準備して下さいました素晴らしいお道具の数々。
富士山麓の清々しい空気のなか、あらためて「お茶って良いな」と思う楽しい時を過ごさせて頂きました。
お茶会紀行と題しましてお伝えさせていただきます。
この記事の目次
東京から富士山麓へ | お茶会に向かう日帰りバス旅
お茶会当日は東京エリアからのお茶会参加者のために座席ゆったり広々バスもご用意くださり、お仲間と修学旅行気分。中央道を下っていきます。
本来ならばもちろんお着物で伺うべきところなのですが、久しぶりの日帰りバス旅行。高速の渋滞も考えると「お着物でちょっと大丈夫かしら、酔ったりしないかしら・・・」と思っているところへ、
やました様から「お着物でなくても良いですよ、ドレッシーな洋装でなくとも良いですよ」とご親切なご案内が。
着物でもなく、ドレッシーでもない洋装のお茶会というのが初めてだったので、出かける時には「あら?私どこへ行くのかしら?」と少し戸惑いつつも・・・
身軽な洋装は心も軽くなり、バスの中はおしゃべりに楽しい時間。学生のときに戻った気分でした。
※もちろんお着物の方もおいででした。
途中休憩の談合坂SAではすでにカラッとした空気!
ここから富士山が近づいていきます。
↑富士山麓にて。
写真は残念ながら雲に隠れておりますが、富士山は何度見ても「大きいなあ」とつぶやいてしまいますね。
着きました!
東京・横浜では残暑も厳しく、モワッとする湿気も続いています。
新鮮な空気に思わず深呼吸を致します。
富士山麓のお茶会 | 茅葺のお茶室にて濃茶席
濃茶席は茅葺の庵にて。
今年新しく葺き替えたそうで、それは美しいものでした。
↑葺き替えたばかりの、こんなにも立派な茅葺を見たことがなかったので、下から上へじっと見てしまうのでした。
茅葺屋根は、鳥さんたちが、ついばんでは巣作りに持っていってしまうそう。鳥さんたちも良いものを知っているのですね。
現在では職人さんが少なく、葺き替えは順番待ちだそうです。
今回、貴重な葺き替えたばかりの庵にて濃茶をいただくことができ、とてもラッキーでした。
中門から蹲踞(つくばい)、栄日庵へ
蹲踞(つくばい)
床に輝く山野草
躙口(にじり口)から薄暗い席中に。
床には大徳寺169世住持の天佑紹杲(てんゆうじょうこう/1586~1666)筆
『岩松無心風来吟』
高くそびえる岩の上に亭々とそびえる老松。
風は無心に吹き来たる。老松も無心に吹かれるのみ。
濃茶席床はこのお軸に季節の富士山麓のお花、
類葉牡丹(るいようぼたん)と紅輪花(こうりんか)
ぶどう地紋の古銅のお花入に、まるでスポットライトを浴びたかのように輝きます。
庵の外には類葉升麻(るいようしょうま)がたくさんある事を教えていただき、なるほどこちらは升麻(しょうま)の葉っぱで、お勉強になりました。
点前座には、道安の土風炉に富士釜。利休居士が良しとされた「七・五・三」に寸法になっているとの事でこれまたお勉強になりました。
主茶碗は裏千家第11代・玄々斎精中(1810~77)のお手造りの赤楽で、銘が「玉獅子」。この文字がお茶碗の胴にも彫ってあります。
江戸末期から明治にかけてご活躍の玄々斎精中さまは、宮中へのお献茶・和巾点を復興、現代の私たちにとても馴染みのある茶箱点や立礼も考案ということで、私の中でのスーパースター。
その今から約160年くらい前のスーパースターと同じ・干支「午年(うまどし)」である事をひそかに喜ぶと共に、お手造りなされた「玉獅子」のお茶碗を手にとらせていただく喜びに感慨もひとしおでした。
ちなみに濃茶席でのお菓子は、地元の銘菓、金多留満(きんだるま)さんの「おにく」。
お・に・く・・・?
知っておられる方はクスクス・・・ご亭主の山下様はポカンとしているお客様のご様子を楽しまれているようにもお見受け致しましたが、
「おにく」は、お肉ではなく、
高山植物の「鬼草」(おにくさ/別名「悪茄子」わるなすび)を模したもの。漢方のオニクとも・・・(金多留満さんによればどちらともyesだそうです)
「今度来たときに寄って見たいわ〜」というお客様たちの声を聞いて下さっていたのか、帰りのバスは金多留満さんへ。お土産として購入する事ができました。
※今回特別に作ったお菓子なので、普段は店頭にはないそうです。
富士山麓のお茶会 | 薄茶席
薄茶席はこの不思議な建物で。
なんと富山から移築した米蔵だそうです。
室内に残る平仮名や片仮名。これは富山からこの富士山麓に来て組み直す際に大工さんたちがつけたもの。それも風情あるということでそのまま残してあるそうです。
薄茶席の趣向は花寄せのよう。やました様の「花結界」に富士山麓の色とりどりの季節のお花が揃います。
床は千草有功(ちぐさありこと/1797~1854)筆
四季詠草 瀧
「つねにいるたかねの雲のかけひより
行くよおちくる水にかあるらん」
その落ちた先に竹筏(たけいかだ)のお香合。
薄器は、斗量(とりょう)棗。蓋が本体をすっぽり覆うような形となっていて、裏千家第8代又玄祭(ゆうげんさい)一燈(いっとう)(1719~71)のお好み。
「たくさんある」という意味で豊年、吉祥の意味でも用いることができるそうです。
茶杓は裏千家第12代・又妙斎直叟(ゆうみょうさいじきそう/1852~1917)自ら削ったもので、銘が「七種(ななくさ)」。
花寄せ風のお席に秋の七草を感じさせる、華奢なお造りの風情あるお茶杓でした。
主茶碗は当代・樂吉左衛門さま(1949~)のお茶碗・銘「木陰」。
昨年2017年の東京国立近代美術館「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」という展覧会では、ご当主も「(樂家のお茶碗が)あんなに揃うのはなかなかないのではないか」(3月の樂美術館特別鑑賞茶会にて)と仰るほど、樂茶碗が一堂に会しました。
ご覧になられた方も多いのではないでしょうか。そこで目にする当代・樂吉左衛門さまのお茶碗は現代的で鮮烈なイメージ。
この度のお茶碗はそのようなイメージではなく「まあ、これが当代の・・・?」と驚かれているご婦人もおられました。
滅多に手にすることのできない当代のお茶碗、手におさめて重みを感じたり、歴代で異なる「樂」印(意外と大きい!)をしかと見たり、胸に刻んでおきました。
今回、蓋置が一見陶器のようにも見え、「なんだろう?このゴリゴリしているものは・・・?」と不思議だったのですが、竹の根の方を切ったものだそうです。驚くと共に納得。
お菓子は京都・伊織製の「富士せんべい」に「雲海」で、
「富士山をいただくのね♪」と富士山麓での空気を満喫しながらいただきました。
富士山麓のお茶会 | 点心席
点心は三友居(さんゆうきょ)さんでした。
里芋・・・いいえ!無花果(いちじく)です。お箸を入れると鮮やかな色がとても綺麗でした。
一つ一つ味を噛み締めながらいただきます。
懐石のご馳走、煮物碗。温かいお出汁と鱒、お豆腐にネギ。すでに酔い心地の気持ちが更に暖かくなります。
(お茶会にという意味です。お酒もとすすめれましたが、帰りのバスを考えご遠慮申し上げました)
ご一緒させて頂きました千秋庵社中のお仲間はそれぞれに食への造詣が深く、懐石もよくお手作りなさるので、
「イチジクをこういう風にすると切った時に色が鮮やかでいいわね」
「これは・・・おかひじき・・・?」(古川)
「違うわね、芽ネギかしら?」(お仲間)
といった感じで懐石点心を共にさせていただくだけでとてもお勉強になります。
富士山麓の澄んだ風が流れる待合からは、薄茶席の米蔵や濃茶席の栄日庵を見渡すことができ、とても気持ちの良い空間。
参加者の皆さまはそれぞれ椅子に座り、ゆっくり時間を過ごしておられました。私も久々に都会の喧騒を離れ心身が癒されました。
お茶会紀行〜お茶のご縁で旅をする | 富士山麓のお茶会
お茶をしていると「お茶をしていなかったらここへは来ていなかったなぁ、こんな経験していなかったなぁ」ということが良くあります。
今回も富士山麓の澄んだ空気のなか、鳥のさえすりや虫の鳴き声を聴きながら、その日のためにご亭主がお心を込めてご準備して下さいました素晴らしいお道具の数々を実際手にとらせていただく。
時代の流れだけでなく、今まで手にふれた人々の歴史をも感じさせられる重み。丸み。
美術館や博物館にあってもおかしくないお道具を間近にしながらも、お席のなかは私も含めて、皆さま和やかな微笑み、笑顔。
楽しい趣向もあったりして、皆さまと拍手をして喜んだり・・・
お菓子をいただきながら「美味しいわねぇ」。お道具を見ながら「不思議な形ね〜」「素敵ね」などと相槌を打ち合って・・・
こうしてその時初めてご一緒させていただく方とも心が通じ合うのも、お茶会の楽しさの一つです。
やました様のこの富士山麓でのお茶会を楽しみにされておられる方は多いようで、ご年配のご婦人方が「久しぶりにこれたわねぇ」「嬉しいわねぇ」と手に手を取り合いながら露地を進まれるご様子に、
私もこうして「幾つになっても大切な友人と大好きなお茶の旅に行きたいものだなあ」と思うのでした。
素晴らしいお茶会にお招き下さったやました様、スタッフの皆様に感謝申し上げると同時に、東京中野千秋庵からご一緒したお仲間、席にてご一緒させていただきました皆様に、本当に楽しく良い時を過ごさせていただきましたことを深く感謝申し上げます。
古川宗洋 拝
※この記事は、頂いた会記を参考に、楽しかった思い出やお道具を振り返りながら書かせて頂いております。それ自体がお勉強となり、とても感謝しております。なお、他所様のお茶会、大事なお道具ですので、お道具単体で写真を掲載するような事は控えております。
▼今回のお茶会「富士桜茶会」の主宰
新古茶道美術品専門 老舗茶道具の「清昌堂やました」
https://seishodo.com/
京都・東京・札幌いずれも裏千家の目の前にあります。
茶道経験者の方はもちろん、初めてお茶のお道具を揃えるという方も絶対に安心できる老舗のお茶道具屋さんです。
普段のお稽古はもちろん、お茶会に行くバスや電車の中で読みたい。
『必携 茶の湯便利帳』(主婦の友社編)
263ページ
サイズ18.2cmx13.2cmx1.6 cm
発売日が1997年と古い本ですが、茶人にはなお根強い人気がある本。
茶の湯の辞典ミニ版ともいえる本で、お道具の事が網羅的に整理されています。
普段のお稽古はもちろん、お茶会に行くバスや電車の中、帰りは会記を見ながらチェックと「こういう時にあると便利なのよね」な1冊です。
▼こんな方におすすめ▼
・今日のお稽古やお茶会のお道具の造りや塗りなどをチェックできる1冊がほしい。
・あのお道具はどなた(歴代お家元)のお好みだっけ?という時にすぐ分かる1冊がほしい。
・お道具など自分の茶の湯に関する知識を一度整理してみたい
発売日が古く市場にはもう中古しか出回っていないようです。お早めに▷▷