本日もお越しいただきまして有難うございます。
巣ごもり生活が続いています。
お稽古場は閉じておりますが、最近では生徒さん方とメールやお手紙でやり取りをしています。
東京中野千秋庵の生徒さんには、すでにご自分でお教室を主宰されている方もおられます。
この外出自粛の時だからこそと、自分もしっかり勉強してご自分の生徒さん方によりお伝えできるようにしようと、こちらに近況報告とともに疑問点などを書いた質問状をお送り下さいます。
このような交流は嬉しいですし、私共もその質問に向き合うことがとてもお勉強になります。
そんな生徒さん方とのやり取りの中で、あらためて茶道にはこの混迷する現代の日常を豊かに穏やかに生きるヒントがあると思った事をご紹介します。
巣ごもり生活の中でひかる茶道の魅力
茶席では「床」(とこ)と呼ぶところに掛軸や花を荘り(かざり)ます。
お客様を懐石と菓子でもてなす初座(しょざ)。
濃茶と薄茶でもてなす後座(ござ)。
お稽古では「諸荘り」(もろかざり)といって、床に掛軸とお花を一緒にかざることが多いですが、茶事では前半の初座で掛軸(掛物といいます)が掛けられ、後半の後座では季節の花が入れられます。
今、外出自粛が続き、お稽古場も閉めていますが、生徒さん方からは、
- 禅語の勉強をしています
- 季節のお花を生けています
といったお便りやメールをいただきます。
禅語の勉強
茶席に入るとまず進むのは床の間の前です。
一礼をして、(諸荘りならば)その日の掛物を拝見し、次にお花を見ます。
その日の掛物の全体を眺め、言葉を見ます。何と書いてあるかどういう意味か分からなくても、「何と書いてあるのだろう」「どういう意味なのだろう」と一心に思います。
お花に目をやると、その瑞々しさ、可憐さに思わず顔の表情が和らぎます。
掛物は、ある時言葉の意味がふっと自分の中に入ってきて、その時の自分の気持ちや環境と不思議と重なるように思うことがあります。
そういう経験が重なってくると、掛物によく書いてある禅語も学びたくなります。
禅語は厳しい修行を積んできた古来の禅僧たちが残してきた語録が原型であることもあり、混迷な世界にあって気持ちが鎮まるような言葉があります。まさに今のこの難局にぴったりの学びかもしれません。
例えば、生徒様が今日学んだ禅語としてお知らせ下さったのが、
「独坐大雄峰」(どくざだいゆうほう)
今、現にここに生きて座っていることの有難さに感謝すること。
その毎日の禅語のお勉強が、色々あっても何事にも動じず冷静沈着に構えて行こうという心の穏やかさにつながったそうです。
季節のお花
利休居士(千利休)は
「花は野にあるように」
とおっしゃっています。
茶席には色々なお道具がありますが、生きているものをいただいてきたのは花だけです。
自然に生えるその花の命、美しさを生かしていきます。
お花屋さんが閉まっていても、ゴージャスなお花がなくても大丈夫。
一輪の花ですら日常を尊いものにさせてくれる。
そんな事を生徒さん方は茶道を学んでいて感じておられるのだと思います。
心に響く言葉「日日是好日」の意味
さて、有名な禅語に「日日是好日」(にちにちこれこうじつ)があります。
2018年公開の映画『日日是好日』(樹木希林さん、黒木華さん、多部未華子さんご出演)でこの言葉を知った方も多いかもしれません。
原作本もあり、もしかしたらこの外出自粛中に読んでみたという方もおられるかもしれません。
その「日日是好日」ですが、
晴れの日も雨の日も
暑い日も寒い日も
楽しいとも辛い日も
その1日1日がかけがえのない日である。
とよく言われます。
「なんだー、何があってもとにかく良い日と思えばいい訳ね」
と私もそう思っていたところがあります。
この「日日是好日」も禅語の一つなのですが、禅語は、修行を積んだ古来の禅僧たちが残してきた語録からきていることが多いです。
「日日是好日」は中国で1300年に編集された『碧眼録』(へきがんろく)という書がその出典で、唐の時代の雲門文偃(うんもんぶんえん)禅師が弟子たちに示した言葉とされています。
親しみやすい言葉であるようでいて、難しい言葉です。
禅語にはそういう言葉が多いように思います。
そのような禅語を分かりやすく解説して下さる方がおられます。
私共、裏千家茶道のお家元・坐忘斎(ざぼうさい)様がビデオレターでもご紹介して下さった、鎌倉・円覚寺の横田南嶺(なんれい)老師です。
老師の新刊によれば、坐禅の要領は
- ほんの一時でも過ぎたことは、気にしない!
- これから起こることも、気にしない!
の2点だそうです。
今現在をしっかり生きる。
この坐禅の要領に「日日是好日」のヒントがあるように思います。
裏千家茶道ではお客様は座っている時には、右手を左手の上にのせ、左手の指は右手で隠れるように、そして右手の親指は左手に隠れるようにしまいます。
この手の形は、坐禅の手の組み方(右手の指の上に左手が重なる)をちょうど逆さにかえしたものと言う方もおられます。
背筋を伸ばして、手を重ねてみる。
お家でも実践できることかもしれませんね。
失礼致しました。
古川宗洋拝
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・天龍寺二百四十一世・関牧翁(せき ぼくおう)老師筆
・お花は紫蘭(しらん)
・花入は青磁耳付
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↓お家元も紹介しておられます。鎌倉・円覚寺 横田南嶺(なんれい)老師の新刊です。読めば心のうちに清々しい静けさが広がっていくようなオススメの書籍です。